感染拡大防止と経済活動の維持

「集団免疫」という言葉が使われることがあります。

「免疫を持つ人が多いほど、感染症が流行しにくくなる、という考え方にもとづいた予防策」だそうです。

感染力でみる新型コロナの脅威ーワクチンができるまで「集団免疫」の予防策はとれない | ニッセイ基礎研究所

英国は当初、外出自粛要請など厳格な封じ込め策をとらず、3月中旬にはジョンソン首相が集団免疫による収束を目指すと宣言しましたが、数日で感染拡大防止策に転換しました。

新型コロナ「集団免疫」で沈静化する?英国は数日で方針転換|【西日本新聞ニュース】

集団免疫の獲得法は、ワクチン接種か自然感染しかなく、ワクチンのない現段階で集団免疫策を打ち出したということは、新型コロナの感染力や重症化リスクを過小評価していたものと思われます。

現状では、英国も含め、集団免疫策は公然とは打ち出すことができず、感染拡大を阻止ないし抑制しながら、かつ経済の急激な縮小も抑える(そのために財政出動を行う)以外にはないようです。

東京新聞:「集団免疫」獲得が終息のカギ 専門家「流行繰り返し長期戦に」:社会(TOKYO Web)

ドイツでは厳格な感染拡大抑止策による経済・社会の疲弊が深刻となっているようで、集団免疫の考え方による「出口戦略」への動きも模索されているようです。

Corona - wann ist man geheilt? - Mit einem Test zurück ins normale Leben

副題には「検査を受けて通常の生活へ[戻ろう]」と書かれており、編集者の願望が込められているようです。

「健康な者[感染し、健康を回復して免疫を獲得した者]は、働きに出てよいし、人と2メートルの距離をあける必要もない」(Wer gesund ist, der kann wieder arbeiten gehen, muss keine zwei Meter Abstand halten)という「モットー」も喧伝されているようです。新型コロナウイルスによるいままで経験したことのない規模での経済活動の縮小が、深刻な懸念を引き起こしていることの表れといえるでしょう。

現時点でドイツには30,000人程度の回復者(≒免疫保持者)がいるとされ、これに感染者の隔離措置をくわえることで、前回も触れたように、基本再生産数(一人の感染者が何人の非感染者に感染させ得るかを示す数値)が当初の3程度から1.3~1.5程度に抑制されているようです。コッホ研究所所長が目標値として示す「1未満」まであとわずかです。

しかしながら、ここで仮に感染抑制策を解除した状態で市民生活を徐々に再開させると、5月以降、新たな感染者がふたたび増大傾向に転じるとのことです。

Corona-Pandemie - Wie Deutschland zur Normalität zurückkehren könnte

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これに対し、感染抑制策を継続したまま慎重に市民生活を再開していけば、次のように(いったん)感染者増加を抑え込むことができる(かもしれない)とのことです。

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抑制策の一環としてマスク使用、検査体制充実のほかに、多数の市民の匿名による自発的参加を前提とする、スマートフォン・スマートウォッチを用いた体調管理アプリ、近辺に感染者がいることを「警告」するアプリ、などが提言されているとのことです。

ただ、これらが実効力をもつためには多数の市民の参加が不可欠ですが、多数の参加を徹底させるために市民に「強制」すればたちまちSF的な管理社会、ないしはフーコー的な「生政治」の究極形態のような様相を呈することになります。

全文公開第二弾! ユヴァル・ノア・ハラリ氏(『サピエンス全史』ほか)が予見する「新型コロナウイルス後の世界」とは? FINANCIAL TIMES紙記事、全文翻訳を公開。|Web河出

『サピエンス全史』のユヴァル・ノア・ハラリ氏、 “新型コロナウィルス”についてTIME誌に緊急寄稿!|Web河出)。

現状を切り抜けるための方策も含むより穏当な提言としては、老人ホーム、養護施設、独居世帯の高齢者などについてはウイルス対策マスク(FFP2)の提供、行政機関による必需品配送等を行い、その他の市民については通常の予防策を徹底し、抑制策にメリハリをつけることなどがあります。

また、Gesellschaft Deutscher Naturforscher und Ärzteのメンバーである複数の研究者は先ごろ(4月2日)、製造業とくにオートメーション化の進む分野についてはできるだけ早い時期に操業を再開すること、各種学校については低年齢層の感染リスクが低いため、できるだけ早く再開すること、また感染率の低い地域から優先的・段階的に厳格な抑制策(ロックダウン状態)を解除すること、等を提言しています。その目的は、経済的打撃を緩和すること、および新型コロナ感染者以外の疾病への対応を正常化することです。

Expertengruppe: Stufenplan für die Zeit nach dem Corona-Shutdown

このなかで経済学者のClemens Fuest氏は次のように述べています。

「市民の健康と安定した経済とは相互に排除し合うものではない。ウイルスが無秩序に拡散している状況では経済の発展は不可能だが、それと同様に、経済の機能が維持されていなければ医療保険システムの実効力も保ち得ない。」