【論文紹介】コロナウイルスと連帯・保健制度(3)

2. ドイツの保健制度―競争とコスト圧力のもとで

重症化した際の集中治療室や人工呼吸器、そして医療スタッフの確保は世界的な課題です。本論文(https://nbi.sankt-georgen.de/assets/documents/fagsf_72_maerz-2020.pdf)でも最新情報に即して、欧州を中心にウイルス危機をめぐる医療の現状が分析されています。

ドイツの包括報酬システム(Fallpauschalensystem; ドイツ版診療報酬制度)は、2020年度から看護介護職を対象外としているそうです(https://www.kenporen.com/include/outline/pdf_kaigai_iryo/201909_no123.pdf p.6)。介護看護職は人件費の削減や過重労働により人手不足が常態化し、離職も相次いでいます。

80年~90年代にコール政権において労働・社会問題相を務めたノルベルト・ブリュームは、(保守系の政権ではあったものの)社会サービスの資本主義化に抵抗し続けていました。2000年前後から(社会民主党緑の党連合政権にもかかわらず)新自由主義的改革(人件費の削減、合理化)の波が看護・介護労働にも押し寄せ、労働の細分化、労働条件の劣悪化が進みました。自己責任志向・他者依存軽視の風潮の中、看護・介護労働そのものの評価が不当に低下したことも背景にはあったとのことです。

この間の社会国家・福祉国家のスリム化の動向の中、コロナウイルス危機を乗り切ることのできる保健制度となっているのかどうかが問われているのです。