留学生チューター活動体験記

卒業生の多賀谷誠さんから、「留学生チューター活動体験記」を寄稿していただきました。

 留学生チューター活動体験記

多賀谷 誠 (国際商学科H30.3月卒、広島大学大学院文学研究科修士課程在学中)

 

 今回は私の実体験として、下関市立大のチューター活動を紹介させていただきます。(あくまで一個人の経験に基づく感想なので、詳細は大学の国際交流センターに問い合わせてください)

 留学生チューター活動の趣旨は、留学生の学修支援、日本語能力上達への寄与、日常生活のサポートです。(ホームページの国際交流センターを参照http://www.shimonoseki-cu.ac.jp/kkc/kf_tutor.html)留学生にとって初めての「大学での友人」となることがほとんどでしょう。

 私がチューターを務めたのはH29年4月からH30年3月までの1年間で、最初の半年は中国の女子留学生を、秋学期はドイツの男子留学生を担当しました。チューターになることを希望する学生の多くは「自分の語学力アップ」を志望動機の一つに挙げると思いますが、基本的に彼らとの会話は日本語で行います。英語や彼らの母語を話せるのであれば、それを共通語として用いることも可能でしょうが、チューター活動の趣旨は留学生の日本語能力上達への寄与にあります。語学が苦手な人でもチューターを務めることは十分可能でしょう。したがってチューターとして活動する際もっとも必要となる能力をあえて挙げるとすれば、日本語の「語彙力」となるでしょう。留学生も日本人学生と同様レポートや小論文を作成しなければなりませんが、ここで必要になるのは砕けた日本語でもフォーマルな日本語でもなくアカデミックな日本語なのです。これを互いに切磋琢磨しながら勉強できるのはやはり同じ学生でしょう。当然単なる「語彙」ではなくアカデミックなそれに習熟することは、ご自身の卒業論文執筆や折々のレポートでも存分に発揮されることでしょう。

 さて、海外の大学では秋入学が主流であるため、交換留学生の多くは秋学期から市立大学にやってくることがほとんどです。したがって、春学期にチューターが担当することになる留学生は、高い確率で前任のチューターから引き継いだ前年秋入学の学生となります。留学してくる学生は非常に日本語が堪能であり、特に半年滞在している留学生とはコミュニケーションで苦労することは少ないでしょう。来日直後の留学生に対しては日常生活のサポートとして多くの事務作業の手助けが必要となります。銀行口座の開設、入国管理局での手続き等邦人でも面倒な手続きが待ち構えているのです。他にも防災・救急講習やごみ処理講習など日本での生活に必要な講習も一緒に受講します。人命にかかわることですし、これには日頃は見られないような真剣な表情を見ることもあるでしょう。

 普段のチューター活動としては学修支援がメインになると思います。私の場合は留学生と事前に時間を決め週一度90分の勉強会を行っていました。「外国語をネイティブと90分も…」と考えると少しおっくうになるかもしれませんが、同年代の学生との穏やかな雰囲気での勉強はなかなか得難いものでしょう。お互い集中力が切れたと感じたら、別の話題を持ち出し談笑するのもよいでしょう。繰り返しにはなりますが、彼らの日本語力は非常に高いです。添削もそれほど苦労するものでありません。普段の学修支援も講義での課題の消化が多くなることでしょう。しかしここでの談笑も留学生にとっては、非常に貴重な学びの時間となります。教科書やテレビ番組のように編集されたものではない、生きた日本語の話に触れる機会となるのです。

 最後に留学生のウケが良かった話題をいくつか紹介します。1つ目はオノマトペ(擬音語)です。講義でも紹介されているようですが、日本語はオノマトペが非常に豊富です。アメコミなどを見ると多彩な擬音語を目にしますが、日本語のオノマトペの数の比ではありません。留学生と行動している間も日本人は非常に多くのオノマトペと生活しています。ペンはクルクル回りますし、雨はざあざあ降るのです。これは留学しなければ体験できないことでしょう。実体験としては慣用表現としての「どんどん」、「だんだん(段々)」をどのように説明しようかと思案したことがあります。動物の鳴き声なども国によって異なりますし、雰囲気も非常に和むので息抜きにいかがでしょうか。

 もう一つは、「歴史」の話です。私たち学生以上に留学生にとって「歴史」は学びにくいテーマです。留学生の声として耳にすることが多かったのは「日本の歴史の教科書は固有名詞が多く、しかも難解な感じ多くて読むのが難しい」という話でした。けっして専門的ではなくとも、ご自身の出身地や下関の地域史(源平合戦など。源氏、平氏の説明もなかなか難しいですが)を平易な日本語で紹介すると喜ばれます。

 留学生とのコミュニケーションの中で、私たちが普段気にしないことを再発見したり学びなおすことが多くあります。語学が堪能でなくとも、人付き合いが苦手な方でも、学年を問わず留学生チューターの活動に挑戦するのは良いことでしょう。

 もう1つ付け加えますと、これは決してチューター活動に限ったことではありませんが先生方との交流も積極的に行うべきでしょう。具体的にはオフィスアワーの活用です。日本の大学でも非常に珍しいこの制度を活用しない手はないでしょう。他の大学と比較しても学生と先生方の間に市立大学特有の距離感があるのは明らかです、何よりも敷地面積が狭いのですから。留学生も市立大の一員としてこの制度を積極的に利用すべきでしょう。無論、私たち学生にとっても同じことが言えますが…確かに高校までの担任の先生方とは距離感が違いますが、大学の先生方も同じ人間ですし、研究室を訪れても取って食われることはないでしょう。そして何よりその道のプロと接する機会は、希少です。「私の教授を紹介しよう」などと言えばきっと彼らは驚くことでしょう。しかし市立大学の学生にはそれが可能なのです。