ユヴァル・ノア・ハラリの第一声

(最初の声明)

Opinion | The Hamas horror is also a lesson on the price of populism - The Washington Post

(詳論)

Israelis and Palestinians are facing their moment of greatest danger since 1948 | Yuval Noah Harari | The Guardian

最初の声明では、「ポピュリスト」ネタニヤフの失政を糾弾しつつ、ハマス掃討が先決であり、その後はじめてイスラエルは、国内の民主主義と国外の平和を実現しようと努力するはずだ、としている。

後の詳論では、懸念されるガザ地区の人道危機にも触れ(夜になったガザ地区、映像を見ると、電気の供給が止められ真っ暗であるのに加え、時折爆音が響いている)、戦況をエスカレートさせて1948年に始まった中東戦争の帰結を蒸し返そうとする両陣営の原理主義を「外部の力(external forces)」によって抑圧しなければならない、と呼び掛けている。この「外部の力」とは”a coalition of the willing – ranging from the US and the EU to Saudi Arabia and the Palestinian Authority”のことであり、これがハマス掃討とガザ地区の完全非武装化に責任を持つべきだ、とのこと。

文面には、この間のガザ地区市民との関係構築に失敗したことの無念さがにじみ出ている。イスラエルの左派勢力を中心とする歩み寄りの努力がすべて水泡に帰したこと、そして、ガザ地区(およびパレスチナ自治区全体)の当局者、市民自身も、イスラエル政府の無策(ガザ地区の「放置」または「力と権力利害による均衡」)に乗じてハマスの実効支配に自らを委ねてしまったこと、これらへの絶望とやり場のない怒りが、たとえば次の文に記されている。

During the 1990s Oslo peace process, Israel gave peace a chance. I know that from the viewpoint of Palestinians and some outside observers, Israeli peace offers were insufficient and arrogant, but it was still the most generous offer Israel has ever made. During that peace process, Israel handed partial control of the Gaza Strip to the Palestinian Authority. The outcome for Israelis was the worst terror campaign they had experienced until then. Israelis are still haunted by memories of daily life in the early 2000s, with buses and restaurants bombed every day. That terror campaign killed not only hundreds of Israeli civilians, but also the peace process and the Israeli left. Maybe Israel’s peace offer wasn’t generous enough. But was terrorism the only possible response?

 

After the failure of the peace process, Israel’s next experiment in Gaza was disengagement. In the mid-2000s, Israel unilaterally retreated from the entire Gaza Strip, dismantled all settlements there and returned to the internationally recognised pre-1967 border. True, it continued to impose a partial blockade on the Gaza Strip and to occupy the West Bank. But the withdrawal from Gaza was still a very significant Israeli step, and Israelis waited anxiously to see what the result of that experiment would be. The remnants of the Israeli left hoped that the Palestinians would make an honest attempt to turn Gaza into a prosperous and peaceful city state, a Middle Eastern Singapore, showing to the world and to the Israeli right what the Palestinians could do when given the opportunity to govern themselves.

 

Sure, it is difficult to build a Singapore under a partial blockade. But an honest attempt could still have been made, in which case there would have been greater pressure on the Israeli government from both foreign powers and the Israeli public to remove the blockade from Gaza and to reach an honourable deal about the West Bank as well. Instead, Hamas took over the Gaza Strip and turned it into a terrorist base from which repeated attacks were launched on Israeli civilians. Another experiment ended in failure. (強調は引用者)

 

え?今なんて言ったの?

国連でのゼレンスキー大統領の演説を動画で見たというラブロフ露外相、ゼレンスキーの姿を「あまり幸せそうに見えなかった」と言っていたようだ。「見てたんだ」と思ったが、彼の9月23日の発言はたしかにその真意をもっと問い質したくなる。

Anton Gerashchenko on X: "Surprise, surprise! Russia recognizes the territorial integrity of Ukraine within the framework of the Declaration of State Sovereignty of July 16, 1990. This was stated by Russian Foreign Minister Sergey Lavrov in his press-conference during the 78th session of the United… https://t.co/VjddO6cihv" / X (twitter.com)

遡って1991年、われわれは国家主権宣言に基づき、ウクライナの主権を認めた。この宣言はウクライナソビエト連邦から離脱した際に採択したものだ。宣言にはよい内容が多く含まれていた。少数民族の権利の尊重もそのなかに含まれるし、ロシア語その他の言語を使用する権利を尊重するとも書かれている。ロシア語は直接に言及されているのだ。そしてこれらの内容すべてがウクライナ憲法に記載された。

だが、国家主権宣言のなかでわれわれにとって重要なポイントの一つは、ウクライナは非同盟国となり、いかなる軍事同盟にも加盟しない、というところだ。この言い回しのもとで、〔いかなる軍事同盟にも加盟しないという〕この条件下で、われわれはウクライナ領土の一体性を支持するのである

たしかに、「NATO加盟を断念すれば領土はウクライナに返す──ロシアは今そう言ったのか?|ニューズウィーク日本版 オフィシャルサイト (newsweekjapan.jp)」と言っているようにも見える。

最大の懸案と言っていいクリミア併合についても、新露政権の転覆への報復とロシア系住民保護のための(超法規的)措置だと考えれば、ロシア政府のなかでは「反ロシア軍事同盟(=NATO)非加盟(とロシア系住民保護)」と「ウクライナ領土保全」とが完全にセットになっているという結論となる。領土併合という最大の禁じ手を使って、西側諸国を全面的に敵対させるほどにまで、ウクライナの非同盟化が死活問題だ、ということになる。

だから、国家主権宣言の出発点に立ち返り、非同盟主義の貫徹が完全に保証されるならば、2014年以来続いている超法規措置を遡って無効化し、91年時点の領土に原状回復を図ることもやぶさかではない、という「解釈」は、十分に筋が通っているのである。

民族文化の窒息?

当然と言えば当然の展開だが、

プリゴジン氏の死亡は確定的 搭乗機墜落、ミサイル発射の痕跡と報道 [ウクライナ情勢]:朝日新聞デジタル (asahi.com)

これで対立要素を消し去り、国政とその評価を国内で一元化する意図が明白になった。このことがはたして民族の力を強めることになるのか、それともむしろ、みずから閉鎖化した民族はその力を失うことになるのではないのか、見極めていかなければならない。

歴史認識一つとっても、これを一元化・統制化し多様な解釈を排除すること、つまり学問を戦時体制一色で染めあげることは、かえって民族文化を窒息させることになりはしないか。

ロシアの新しい歴史教科書、ウクライナ侵攻を正当化 人類の文明守るためだと - BBCニュース

ロシア、新しい歴史教科書を公開 ウクライナ侵攻称賛 写真12枚 国際ニュース:AFPBB News

アングル:初のロシア国定歴史教科書、プーチン史観の裏に若者への懸念も | Reuters

役者と戦争

「劇場型○○」という表現があるが、プリゴジンの場合は「劇場型雇われ兵」のボスと言わなければならない。この人物が描き出し実践実演するシナリオは、「ロシア型世界市民主義」である。これがロシア政府の演じる「ロシア型国家主義」を微妙に牽制し揺さぶり、その限界を内外からあぶりだし、なおかつ、両者はナショナリズム(ロシア民族主義)という共通項により互いに依存しあっている。

“反乱の地”にプーチン氏 プリゴジン氏“天敵”出迎え(FNNプライムオンライン(フジテレビ系)) - Yahoo!ニュース

プリゴジン氏、反乱後初めて動画で演説 アフリカに言及 - BBCニュース

思想戦の挑戦と応戦

これは問題作だ。

ロシア誌に掲載された「著名学者による『核攻撃必要論』の戦慄の中身」 | 「核兵器に対する恐れを復活させなくてはならない。さもなくば、人類は破滅するだろう」 | クーリエ・ジャポン (courrier.jp)

核攻撃の進言、という触れ込みは正確ではない。核抑止論の戦略的具体化、と言うべきだ。

ただ、なぜそんな議論がでてくるかというと、一つには筆者が正直に認めている通り、ウクライナ問題が首尾よく進まないことがある。

追い詰められて伝家の宝刀に頼るという動機以外に、核抑止論が正面からでてくる理由はないと思われるのだが、筆者はまことしやかに、文明間戦争、世界観戦争のレトリックを紛れ込ませている。

その大筋はしかし、グローバル・サウスまたはグローバル・マジョリティのエスタブリシュメントの意向に沿うものかもしれない。筆者が最も心血を注いでいるのはまさにそこだ。

最大のポイントは、中国とインドの経済的躍進を背景とする国際政治状況の多極化を、その背後からロシアの軍事力が支えていく、というシナリオである。ロシアはロシアで「東方」(ウラル・シベリア)へと文明・文化(思想)の軸足を移すという見通しが語られるが、それはあくまでも中国・インドとの緩やかな連携の前提としてであり、ウクライナという「西方」問題は、(「東方」問題に専念するためにも)できるだけ早いとこ片付いてくれないだろうか、というのが筆者の本音のようだ。

筆者の専門分野からすると、核抑止論(≒核による脅し)の具体化が核戦争抑止のための唯一の手段だとのくだりが焦眉で、これを編集者は核攻撃の進言、と早とちりしている。ここは筆者自身もやはり認めている通り、到底科学的な言い回しになっていない。

ただ、筆者が神を持ち出して核兵器の存在意義を語っているところを、科学的な言い回しに翻訳するとどうなるか、を考えてみることは無価値ではなかろう。たとえば、「核抑止手段を戦略的に具体化することは、西側諸国の一極支配に最終的に終止符を打ち、多文化共存のあらたな文明構造を築くための不可欠の手段だ」というのが筆者の意図であるとも解釈できそうだ。

上記のように、核抑止論が登場してきたのはロシア側の「焦り」の結果としか思えないため、いまさら何を、という話ではある。だが、グローバル・サウスまたはグローバル・マジョリティの一定数(多数?)が同調ないし黙認しそうな筋書きではある。ここのあたり、とりわけ「もし本当に核兵器を使ったらどうなるか」についての主に新興国側への配慮も、筆者は欠かさない。

ともかくもまずは、たとえば、以下のようなくだりを丁寧に反論するのが、このもっともらしい話を切り崩すための出発点となるように思われる。荒唐無稽な妄想と切り捨てるのではなく、相手方からのそれなりに理論武装した挑戦に対する、思想戦のマナーに則した相応の応戦は必要ではないだろうか。

我々自身について言えば、先制攻撃を遅らせたのは、衝突の必然性を見誤ったためか、力を蓄えていたためである。さらに言えば、近代の、主として西欧的な軍事・政治思想に則して、軽率にも核兵器使用の敷居を高く設定し、ウクライナの状況を適切に評価できず、そのため現地での軍事作戦を成功裏に開始できなかったという事情がある。 

 

西欧のエリートたちは内面的に堕落しており、70年にわたる幸福、飽食、平和の後に生えてきた雑草を積極的に育みはじめた。つまり、家族、祖国、歴史、男女間の愛、信仰、より高い理想へのコミットメント、人間の本質を構成するものすべてを否定する「反人間的イデオロギー」を養っているのだ。

 

「世界で二番目に古い職業」の行く末

傭兵は現代に至るまで、ロシア、中国、さらには米国でも暗躍してきたとのことだが、この、前線の肉弾戦に駆り立てられながら公式な戦死者にすらカウントされない「汚れ役」を、正規軍に吸収合併することを試みたことの意図は何だったのだろうか。

武装反乱後も影響力を保持? ロシアの「政商」プリゴジン氏はなぜ“粛清”されないのか? | 集英社オンライン | 毎日が、あたらしい (shueisha.online)

傭兵と正規軍(志願兵+徴兵)の緊張関係が、一瞬ではあるが表面化したのがワグネル反乱であった。指揮命令系統の統一という表向きの意図だけでなく、国防省幹部自身も保有するとされる傭兵組織との利害関係も背景にはあるだろう。

ワグネルの組織原理が「国益第一、利益第二」と評されることがあるようだが、もちろんこれを文字通りに受け取るわけにはいかない。とはいえ、ロシアの戦争の根っこに何があるのかという点を考えるうえで、傭兵と正規軍との緊張関係という、歴史の根幹にもかかわる部分を見逃すわけにはいかない。

そして、国の掲げる戦争大義国民感情にとって「空振り」に終りかねないとき、多大の「名もなき」犠牲を捧げる傭兵の「別の大義」が国民に一定の支持を得る可能性があることを、ワグネル反乱は一瞬だけ示したと言えるだろう。

この緊張関係のなかを、ロシアがもうしばらく動いていくという見立てが、ロシアの国内事情と戦争の行方に別の光を当てるのかもしれない。

政治におけるジャーゴン(内輪の論理)

自民党防長政治」という語だが、もはやバズワードまたはジャーゴンと化していないか。

そもそも長州政治の雰囲気を知らない域外の人びとには、この語の意味するところがわからないのではないか。一般的な用語として使われることのほとんどない、完全に内輪の論理であり、公的な通知文に突然現れると違和感を覚える。

(8) 河村建一 日本維新の会(東京6区) on Twitter: "本日8月4日、自民党山口県連は、私、河村建一を7月18日付で除名処分にすると発表しました。 私としては骨を埋める覚悟で日本維新の会の門を叩いたので、離党でも除名でも構いません。 全く論理的でないこうした現在の防長政治は、残念ながら私の知っている歴史と格式高い防長政治ではなく残念です。 https://t.co/6lE3tTKSW0" / X