グテーレス国連事務総長の声明
Secretary-General’s statement on the situation in the Middle East | United Nations Secretary-General
これは国連のサイトでは現地(ニューヨーク)時間10月15日付となっているが、日本時間では10月16日午前5時ごろであると考えてよいだろう。
ハマスによる人質解放、イスラエルによる人道援助アクセスの即時無条件開放。これらを次のように強く求めている。
Each one of these two objectives are valid in themselves. They should not become bargaining chips and they must be implemented because it is the right thing to do.
とくにエジプト、ヨルダン、ヨルダン川西岸地区、イスラエルからの国連緊急援助物資のガザ地区内への供給ルート確保が急務だとしている。ハマスによるイスラエル市民に対する最初の急襲と虐殺についても、またイスラエルの報復行動そのものの是非についても沈黙し、もっぱら現在進行中の人道危機の打開を急務としている。
先述のグリフィス人道問題担当事務次長もこれに呼応している(日本時間10月16日午前5:30付)。
これに先立ち、イスラエル外務省は公式アカウントで、人道危機を訴え、ガザ地区の封鎖措置を批判するグリフィス人道問題担当事務次長を「罵倒」していた(日本時間10月16日午前0:35付)。
「恥を知れ」「人道性が欠けているとすればそれはあなたの方だ」というのは、いくら何でも「外務省公式アカウント」の国連幹部に対する言葉ではないのではないか。
とはいえ、この外務省コメントを注意深く読むと、「あなたは10月7日の〔ハマスによる〕イスラエル市民の残虐で歴史的規模に匹敵する虐殺〔massacre〕のことを単なる別の『攻撃〔attack〕』と記載している」と書かれている。グリフィス事務次長のイスラエル非難そのものが問題なのではなく、国連の責任者である彼による問題の扱い方、評価軸が問題とされているのである。ユダヤ人に対するホロコーストと、今回の件の共通の背景をなす反ユダヤ主義が念頭に置かれているのは間違いなく、今回の件を別の事例と比較して相対化することを厳しく戒めているのである。
イスラエル外務省のコメントは、「国連の人道性、そして『二度と繰り返さない』という誓いこそが欠落している」と結ばれている。当然にもこれは、反ユダヤ主義者に対してのみ求められている誓いではなく、イスラエル政府がガザ地区市民に対してとっている措置、とりわけガザ地区の完全封鎖、水・電気・食料・燃料供給の停止、そして今回の100万人規模の退避命令に対しても求められているものである。だから「人道性、『二度と繰り返さない』という誓いが欠落している」という罵倒はイスラエル政府にもブーメランとなって戻ってくることになるが、この点の自覚がどこまであるか、疑わざるを得ない。
「罵倒」の対象となった、グリフィス事務次長の日本時間10月15日午前0:26付声明を見てみよう(ちなみにこれは、この後で出されたグテーレス事務総長の声明と同趣旨。「戦争にも〔国際人道法などの〕ルールがあり、それはつねに、あらゆる立場から遵守されなければならない」と主張している)。
イスラエルについての記載は、「イスラエルでは、家族が先週土曜日の攻撃〔last Saturday's attack〕によって打ちひしがれている。1,000人以上の人びとが殺害され、さらに多くの人々が負傷している。100人以上の人びとが人質にされている。」とのみある。あとはもっぱらガザ地区住民に関する懸念が述べられている。確かに、「虐殺」ではなく「攻撃」と書いている。この「アンバランス」が、イスラエル当局者には最初の「虐殺」への軽視だと映ったのであろう。
なお、朝日新聞がこの件を報じたが、公開部分では上述の事実関係については触れず、「イスラエル外務省、国連幹部に「恥を知れ」 避難勧告批判され不満か」とのみ述べている。
イスラエル外務省、国連幹部に「恥を知れ」 避難勧告批判され不満か
イスラエル外務省は15日、国連のグリフィス事務次長(人道問題担当)に対し「恥を知れ」とX(旧ツイッター)上で非難した。パレスチナ自治区ガザ地区への地上侵攻の可能性が高まるなか、グリフィス氏はガザ市民への避難勧告などを批判しており、イスラエル側がいらだちを募らせているとみられる。
グリフィス氏は英国の外交官出身で、国連人道問題調整事務所(OCHA)のトップも兼務する。14日には「おそろしい1週間だった」と題した声明をXで公表。「ヒューマニティー」が、悲惨な現状に「勝らなければならない」と主張した。「ヒューマニティー」は人道性や人間性のほか、人類全体を意味する。
声明では「戦争にもルールがあり、そのルールはいかなる時も、いずれの側にも守られねばならない」と指摘。ガザ地区の「危機的な状況」に触れ、民間人保護の重要性を訴え、「この1週間はヒューマニティーにとっての試練であり、ヒューマニティーは落第している」と結んだ。
イスラエル外務省、国連幹部に「恥を知れ」 避難勧告批判され不満か(朝日新聞デジタル) - Yahoo!ニュース
※ 続きのある元記事は有料扱い:イスラエル外務省、国連幹部に「恥を知れ」 避難勧告批判され不満か [ガザ情勢]:朝日新聞デジタル (asahi.com)
これではイスラエルの退避命令そのものについてのグリフィス事務次長の批判に対して、イスラエル外務省が不満を抱いたのだと、読者をミスリードする可能性がある。だがこれは根本的な誤りである。上述のように、イスラエル政府が不満、というよりむしろ憤りを覚えているのは、国連幹部という責任ある立場にある者が、このたびの「ユダヤ人虐殺」を軽んじるという挙に及んでいるのではないか、という点にある。記事の有料部分を確認すると、簡単にコメントの内容と経緯が触れられているものの、(訳も含めて)十分なものではない。
繰り返すが、「人道性、『二度と繰り返さない』という誓いが欠落している」という、イスラエル外務省がグリフィス国連事務次長、および国連そのものに対して投げつけた言葉は、イスラエル政府にもブーメランとなって戻ってくる。この点の自覚がどこまであるかが、いま問われている。