「あらゆる兵器を使う」ことはできない

大量破壊兵器の使用の有無が、ロシア一国の最高指導者の匙加減一つに委ねられているという事態を、メディアは当然視しすぎているのではないか。

ロシアの「併合宣言」に一斉反発 ウクライナNATO加盟申請―プーチン氏「あらゆる兵器使う」:時事ドットコム (jiji.com)

国際法に照らせば、不正な(自衛でない)武力行使(侵略)の結果としての領土併合はそれ自体不正である。

ロシアによる「併合」は違法であり無効 宮内靖彦・国学院大教授 [ウクライナ情勢]:朝日新聞デジタル (asahi.com)

008.pdf (ris.ac.jp)

と同時に、「武器の合法性については、国際法の分野としての武力紛争法で規制されています。同法において合法な武器を使い、合法な方法で戦えば、武力紛争法に違反しません」(上記朝日新聞記事)。

武力紛争法によれば、

・いかなる武力紛争においても、紛争当事者が戦闘の方法及び手段を選ぶ権利は、無制限ではない。

・過度の傷害又は無用の苦痛を与える兵器、投射物及び物質並びに戦闘の方法を用いることは、禁止する。

・自然環境に対して広範、長期的かつ深刻な損害を与えることを目的とする又は与えることが予測される戦闘の方法及び手段を用いることは、禁止する。

ジュネーヴ諸条約追加議定書Ⅰ 35条

https://www1.doshisha.ac.jp/~karai/intlaw/docs/ap1.htm#35

また

・無差別な攻撃は、禁止する。無差別な攻撃とは、次の攻撃であって、それぞれの場合において、軍事目標と文民又は民用物とを区別しないでこれらに打撃を与える性質を有するものをいう。
(a)特定の軍事目標のみを対象としない攻撃
(b)特定の軍事目標のみを対象とすることのできない戦闘の方法及び手段を用いる攻撃
(c)この議定書で定める限度を超える影響を及ぼす戦闘の方法及び手段を用いる攻撃

ジュネーヴ諸条約追加議定書Ⅰ 51条

https://www1.doshisha.ac.jp/~karai/intlaw/docs/ap1.htm#50

(参考;武力紛争法について)

国際紛争処理法 (doshisha.ac.jp)

https://www2.jiia.or.jp/kokusaimondai_archive/2000/2006-11_005.pdf?noprint

こうした国際法の規定を厳格に遵守するか否かが本来の問題なのであって、その都度の政治・軍事状況によって指導者の手に「あらゆる兵器を使う」ことが許されているのではないということを、もっと強く主張すべきではないか。

ロシアの侵攻開始以来、ウクライナ武力行使は自国領への侵略への抵抗であり、純粋な自衛行動だったが、ロシアが4州の併合を宣言したのち、この武力行使は占領地・不法な併合地の奪還へと意味が変わった。

ウクライナ、東部拠点を奪還 ロシアは原発所長拘束―弾薬不足、改めて露呈:時事ドットコム (jiji.com)

ロシア国防省 東部要衝リマンから撤退発表 ウクライナ軍奪還か | NHK | ウクライナ情勢

ロシア軍、ウクライナ東部の要衝から撤退 「併合」宣言の翌日 - CNN.co.jp

ウクライナ側および西側諸国を中心とする国際社会の側からは、不正な併合地の奪還は自衛行動、正当防衛の延長であるが、占領地を既成事実として「自国領」としたロシア側(および少数の?支持者)からは「侵略」と受け止められよう。後者の言い分が国際社会において広く受け入れられることは困難だが、それは別としても、この領土奪還の手段にも当然ながら、上記の法的制約は課せられている。

なお、上記CNN報道に見られるロシア側の説明には、NATO側の武器・情報提供により「撤退」を余儀なくされたとあり、「ロシア領への西側諸国の不当な侵略により、核使用のハードルが下がった」とのニュアンスが読み取れなくもない。きわめて危険な兆候ではないか。

(直截に核使用を提案するカディロフ首長)

「より思い切った作戦を」親露派のチェチェン首長、小型核使用を主張 | 毎日新聞 (mainichi.jp)

(すでにプーチン大統領も併合宣言時に「唯一の先例である米国」に言及)

チェチェン首長、ロシアに「思い切った措置」呼び掛け 低出力核兵器も - CNN.co.jp