緊急経済対策について(1)

3月中旬、欧州中央銀行(ECB)は緩和拡大に慎重だったドイツの意向に反して7,500億ユーロ(約90兆円)の資金(国債社債等の購入資金)の供給を決定しました。ECBのラガルド総裁は「普通でないときには普通でない行動が必要になる」と述べたそうです。

欧州中銀、90兆円資金供給 臨時理事会で決定 (写真=ロイター) :日本経済新聞

これと同額、7,500億ユーロ(約90兆円)の財政パッケージを、ドイツも3月下旬に決定しました。憲法にも記されている(!)借入制限を一時停止し、さっそく1,500億ユーロ(約18兆円)の国債を発行して新型コロナの影響緩和策に充てるそうです。

ドイツ政府、総額7500億ユーロのパッケージ承認-新型コロナ対策 - Bloomberg

新型コロナウイルス対策へ正念場(ドイツ) | 地域・分析レポート - 海外ビジネス情報 - ジェトロ

一方、米国も3月末、過去最大の2兆ドル(約220兆円)の経済対策を打ち出しました。

米与野党、220兆円の経済対策合意 新型コロナで、現金給付も:時事ドットコム

これに続き、日本も4月7日、108兆円規模の緊急経済対策を打ち出しました。

[議論]108兆円の新型コロナ経済対策、雇用不安解消に効果あり?:日経ビジネス電子版

単純比較はできませんが、目安として各国の経済対策予算のGDP(2018年)比をみると、米;10%、独;20%、日;19%で、GDPの規模からはドイツとほぼ同等と言えそうです。

ドイツの場合、健全財政が際立っていますので、そういう意味でも単純比較はできず、「ドイツ並みの財政出動をやって大丈夫なのか?」と率直な疑問が浮かびます。

ところが、ドイツと日本の財政問題への見方をまったく反転させるような見方が提起されています。「自国通貨を発行する国には財源問題はなく、したがって、日本政府は財政赤字をもっと拡大させても、デフォルトになることもインフレ(消費や投資に供給が追い付かない状態)が止まらなくなることも、金利が暴騰することもない」という、中野剛志氏の主張です。

これは「第二次世界恐慌」だ!〜評論家・中野剛志氏が緊急寄稿~ | 日本のMMTブーム仕掛け人・中野剛志が“今の日本”を語る

国民の命と国家財政と、どっちが大事なのでしょうか【中野剛志・新型コロナ緊急事態宣言下の日本の指針を語る】 | 日本のMMTブーム仕掛け人・中野剛志が“今の日本”を語る

この立場(MMT;現代貨幣理論)からすると、デフォルトの危険を抱えているのは自国通貨を発行しない(国債もユーロ建てである)ドイツの方だ(ドイツはユーロ建てのドイツ国債を、自らユーロを発行することによって償還することができないため)、ということになるそうです。これに対し終始一貫して自国通貨建ての国債を発行している日本は、休業補償や直接給付をもっと積極的に行って国民の命を救うことを優先したとしても(もちろん「国民の命の優先」に異存の余地はないわけですが)、財政も危機に瀕するようなことはない、とのことです。

1920年代のドイツを思い浮かべ、インフレと通貨の暴落とを結び付けて考える習慣がついていると、インフレを「消費や投資に供給が追い付かない状態」とだけ捉えるのは問題ではないか(もちろん、第一次世界大戦敗戦後のドイツと現在の日本とでは状況は根本的に異なりますが)、など、疑問も浮かびます。しかしひとまず、「巨額の赤字を抱えているのだから(いくら経済危機と言っても)財政出動赤字国債発行はほどほどに」という固定観念を疑い、国家財政の本旨を考えてみることは必要でしょう。


【4/22追記】

緊急経済対策総額(事業総額117兆円)のうち、歳出部分(「真水」)部分は27兆円程度で、全く十分ではないとの意見があります。