「覇権争いにノータッチを貫く」との要望・期待

グローバル経済においては経済制裁が経済成長のきわめて大きな足枷となることは自明であろう。くわえて、外交の場で国の立場の承認が得られないことも(それ自体が直接に経済制裁の原因とはならないとしても、将来的な経済制裁への懸念から)貿易の妨げとなり、経済に悪影響を及ぼす。

この点、ロシアへの経済制裁および国連での非難決議の「効き目」はいかほどのものであろうか。この点について考えるための格好の記事が出た。

プーチンが金正恩を絶賛するあまり「巨大な北朝鮮」になりつつあるロシアの末路(北野 幸伯) | 現代ビジネス | 講談社(1/7) (gendai.media)

ロシアが北朝鮮の「戦略」(とりわけ恫喝外交)に追随し、まるで親分の面目を保つためでもあるかのようにこれを上回る過激な策に出ている、という解釈は、一定の説得力をもつように思う。

外交上の立場については、国連の非難決議に棄権または白票を投じた国(計47ヵ国)は「中立」であり、明白な反対(つまりロシアの立場に賛成)の国はわずか4ヵ国(ベラルーシ北朝鮮エリトリア、シリア)。いずれも「国際的に孤立している国」とのことで、ロシア自体も孤立国の道を歩んでいる、との解釈である。

こうしたなか、経済制裁によってとくに海外の部品輸入に依存する分野で大きな影響が表れているという。自動車業界や航空業界が典型で、とりわけ航空業界は国内旅客機の半数以上に当たる515機が海外からのリースであるが、経済制裁への対抗措置としてロシア政府はこれを「接収」するのだという。当然のことながら、リース元からのサポートや海外からの部品調達が得られなくなると、接収したリース機はおろか、国内製造機ですら生産・使用が不可能となる。

もちろん「今の路線を進んでいけば、ロシアは早晩「巨大な北朝鮮」に成り果てる」との北野幸伯氏の結論を、ロシアは受け入れないし、その結論に至る前提、北朝鮮の恫喝外交を過激化させる道をロシアが選択したとの想定にも反対するであろう。

問題は、その前提も結論も受け入れない、とする立場をいかに根拠付けるか、である。とりわけ前提(北朝鮮の恫喝外交を過激化させる道をロシアが選択したとの想定)への反論は、やや手間と労力を要するように思う。

そもそも「侵攻ではなく、集団的自衛権に基づく正当防衛である」との論理が説得力をもたない。これが国際的孤立の根源である。

一方、経済面ではどうか。収入源の4~5割を占めるとされる石油・天然ガスをはじめとする豊富な天然資源。これが欧州でもアジア(とくに日本、韓国、そして台湾)でもロシアにとって(少なくともユーラシア大陸周辺の)国際情勢を左右する最大の鍵となっている。

新たなニュースとして、サハリン2(現行の運営会社サハリン・エナジー・インベストメント・カンパニーの株式を三井物産が12.5%、三菱商事が10%を保有)についてロシア側は「新会社」設立以降も「価格、調達量に変更なし」との通達を行ってきたという。

「サハリン2」新会社 ガスの価格など変更なしと日本側に提示 | NHK | サハリン1・2

実質、「現状維持」である。経済制裁に加わりつつも、日本はエネルギーの安定供給と利権の確保を優先させ、結果的に、ロシアの完全な国際的孤立を回避する方向に舵を切る(そしてそのことによって、さまざまな点で類似した立場にあるドイツとは一線を画する)可能性がある。

輸入資源への代金が武器弾薬の資金源となるというウクライナ側の言い分は、当初肯定する向きもあったものの、戦争長期化により、日本ではいつのまにか掻き消えようとしている。通商と外交の現実を見据えた姿が、ここにはある。天然ガスをめぐるロシアの現状維持の申し出は、通商関係を中心とする軟化政策とも名づけることができるかもしれないが、このあたりはいまのところ、恫喝外交とは正反対の様相を示しているといえそうだ。

ところで、軌を一にして中国側からもやや似た動きがあった。こちらは国交正常化50周年を控えているだけにさらに「日本寄り」である。

中国、尖閣周辺で漁業「操業控えよ」 台湾海峡での漁は継続 “日米分断”の思惑も?|TBS NEWS DIG - YouTube

秋葉国家安保局長、中国外交トップ楊氏と台湾情勢などで意見交換 | ロイター (reuters.com)

日本側から「ペロシ訪台」に関しなんのリアクションもないところで、日本は今回の台湾問題においては直接の当事者ではない(だから米国に追随すべきでない)、と踏み込んだ形で言及しているあたりは、日本側を「牽制」し「試す」意図もあるのだろうが、日中国交正常化の歴史を背景とする、日本側へのある種の「信頼」の表れであるようにも見える。

これらのロシア、中国双方からの「軟化政策」の意味を、日本側は十分に検討すべきだろう。「覇権争いにはノータッチ(中立姿勢)を貫く、経済中心の通商・外交政策」。これが、ロシア、中国からの「要望」でありかつ「期待」であると、解釈できるようにも思われる。

(関連)

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日韓で液化天然ガス争奪戦?=韓国ネットは政権批判「何か備えはあるの?」 (2022年8月15日) - エキサイトニュース (excite.co.jp)

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サハリン2の「権益維持」、三菱商事もロシア側に通知へ : 読売新聞オンライン (yomiuri.co.jp)

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ロシア、三井物産の12.5%出資承認 サハリン2新会社: 日本経済新聞 (nikkei.com)