接触追跡アプリについて

すでに韓国シンガポール、オーストラリアで使用されている感染者接触追跡アプリですが、ドイツでも導入が予定されています。4月初頭から、中央サーバに集約させる「中央集権方式」を軸に国内で開発が進められていましたが、このほど、多数の批判の声が上がったことをふまえて、アップルとグーグルが開発しているスマホ利用による「分散方式」の採用方針に変更したようです。

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ナチスのスパイ活動、旧東独の秘密警察のトラウマもあって、ドイツ政府は接触アプリ開発計画を発表して以来、同アプリが「任意かつ匿名」(voluntary and anonymous [freiwillig und anonym])であることを強調してきました。

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元来、「感染者の接近を知らせる警告」と並んで「QRコード登録により、検査結果を迅速に知らせることが可能」であることも謳っていたようです。「PEPP-PT(汎欧州プライバシー保護接近度追跡)」と称されるこの中央集権型アプリは、連邦軍も実証研究に参加し、開発を主導してきたコッホ研究所のLothar Wieler所長は「多数の感染者と非感染者がアプリをダウンロードすることにより、接触情報を広範かつ迅速に知らせることができる」と「お墨付き」を与えていました。

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↑この記事によると、韓国とシンガポールは「接触情報」と「携帯番号」が中央官庁に蓄積される形(つまり最も徹底した「中央集権型」)を採用しているようです。個人情報が特定され、外出禁止令違反を罰則の対象とすることもできるでしょう。

ドイツでは当初から個人を特定できるシステムを想定していなかった(そのためにQRコード登録方式としていた)ようですが、国が導入を検討していたアプリが中央集権型であったために、アップルが設定変更を拒否したとのことです(ならば韓国、シンガポールではどのように「中央集権型」が倫理的・技術的にクリアできたのでしょうか)。

次の記事にあるように、中央集権型が「社会全体の前例のない監視」(unprecedented surveillance of society at large)を可能にするという危惧はもっともなものです。一方、分散型では携帯番号を症状とあわせて登録することで、医療関係者からのアドバイスを得ることも可能なようです。もちろん前提は「任意」の登録となりますが。

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個人の権利と利便性を最優先する観点から、アップルがドイツ政府の要請を拒んだ、とも捉えることができるようにも見えます。この私権優先の観点が、どこまで「感染連鎖の遮断」という公共の利益につながるか、という点が重要かもしれません。

セキュリティ等、技術面の詳細も含め、問題を体系的・網羅的に論じることは能力を超えますので、機会を改めたいと思います。