(再度)緊急事態宣言と検査体制の拡大はセットでなければならない
国連事務総長が、成功を収めつつある韓国の新型コロナウイルス対策について、「気候変動対策と両立させた経済復興策」と結びつけているとして絶賛しています。
4月30日には新規感染者がゼロだったとのこと。直近の動向を見ても成果はめざましいものがあります。
この成功のカギを握るものは何だったのでしょうか。報道によれば以下の点が特徴的であるようです。
- 徹底的な検査体制
- MERS(中東呼吸器症候群)の反省に基づき、独自に開発された民間検査キットの迅速承認、民間検査施設の承認
- MERSの際成立した「感染症対策法」に基づき、「クレジットカードの利用履歴や防犯カメラの記録、スマートフォンの位置情報などから感染者の行動履歴を割り出し、ウェブサイトやアプリで公開するという施策」の展開
3点目はプライバシーの観点で問題になりそうですが、山中伸弥教授も紹介しているように、具体的には次のような内容のようです。
防犯カメラ、クレジットカードの利用歴、車やスマートフォンのGPS等を活用し、感染者の足取りを徹底的に追跡。
その結果を、Webで迅速かつ詳細に公開。近傍で新たな感染者が同定されると、スマートフォンに通知。
感染者のうち軽症者は、特別に用意された施設で隔離。もしくは自宅隔離の場合は、GPSで行動管理され、隔離に違反すると罰金(最大25万円)
これらの対策は2015年のMARSの教訓により確立され、病院のベッドを重症者に確保することができる。
最後の「病院のベッドを重症者に確保」がきわめて重要です。韓国でも完全なロックアウトは実施されていませんから、ロックアウトなしに感染拡大を防止するためには、さしあたり、①検査体制の徹底拡大、②感染者の隔離・行動の管理統制、が最も有効な手段であることが実証されたと言えるでしょう。
一方、検査を拡大せず、自粛要請をだらだらと続ける今の日本のやり方では、将来的に、社会的・経済的コストが膨大なものとなるかもしれません。
なによりも、軽症者、無症状者が場合によっては本人も知らぬまま外出することで、感染者を増やし、救われたはずの命の犠牲を増やしてしまうかもしれません。次の記事にもある通り、検査対象を限定することは、結果的にむしろ、多数の事例が示すように、検査すらうけられないまま自宅待機を強いられる間に重症化を引き起こし、検査対象の限定がめざしていたはずの医療崩壊の防止そのものに真っ向から反する可能性があるのです。
軽症者だけでなく無症状者を早期に把握し行動制限をかけることが必要かと思われます。繰返しますが、緊急事態宣言と大規模な検査の実施はセットでなければならないでしょう。クラスター追跡を行うのと並行して、広範な検査を実施することが、軽症者・無症状者によるウイルスの「デリバリー」を防ぐために急務です。もっとも、韓国のように徹底した行動統制を行うかどうかは議論の分かれるところでしょう。とくに位置情報による「監視」は倫理的なハードルをクリアする必要があります。
これを読むと、韓国の行動統制は中国並みの徹底した監視だと言えるでしょう。さすがにそこまでは日本ではできないかもしれません。最低限匿名化すること、また「違反」して外出した際、人物を特定し「罰則」を設けるかどうか、などの課題をクリアしなければなりません(実際にルールが適用されるか否かを除いても、ある種の「威嚇」効果を狙ったルールとも言えるかもしれません)。
しかし、日本の新規感染者数の動向が(桁が一つ少ないとはいえ)イタリア、スペイン、イギリスなどと似ていることを踏まえると、(第1波の)抑え込みにはほぼ成功したと言える中国や韓国のお隣に位置しながら、なかなか強烈なハンマーで一挙に抑え込むことができないでいるのをもどかしく思うのも無理はないかもしれません。