長州の政治経済文化(4)

 井上候に「貴様はエンジニアになれ」と「申し渡」された鮎川は、「立身出世」に燃えて山高卒業後、東京大学工科に進学、ところが卒業時、井上候から三井入りをすすめられたにもかかわらずこれを辞退、「政界、財界多数のエリート」に「二重人格の人が多」く「私が進んで使われてみようという風格の人は見つからなかった」という理由で、「福沢〔諭吉〕先生の独立自尊で行くことだと決心」し、井上の賛同も得て、「素性」を隠して芝浦製作所〔現東芝〕の一職工としてスタートを切ります。

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長州の政治経済文化(3)

 地域独特の気質もさることながら、生来の、そして環境の中で育まれ受け継がれる気質をうまく引き出して「人づくり」を行うためための原動力となるものとして、教育支援のための体制整備も挙げられるでしょう。その意味で鮎川の次のような記述は参考になります。

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長州の政治経済文化(1)

 当研究会は不定期開催となりますので、活動成果はそう頻繁には更新されません。そのかわりに、というわけでもないのですが、ここでは、会の趣旨や想定している研究テーマについていくつか取り上げてみたいと思います。

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【思想史・制度史研究会(地域文化研究会)】第1回 制度論と国家・自治体/フェアトレード

「思想史・制度史研究会(地域文化研究会)」第1回研究会を開催しました。
以下、簡単に報告します(研究会の趣旨・方針等については後日あらためて報告します)。
 
開催日時:2021年3月22日(月)13:30~15:30(Zoomによるオンライン開催)
 
1.「制度」と「国家」に関する私論の紹介
大野悠介氏(下関市立大学公法学
 
(概要)
 フランスの法理論家、モーリス・オーリウの制度論から「理念のもとに力を組織化した事業体」という構想を、国家・自治体のとらえ方に応用する試みが紹介されました。ここでは国家は理念実現を目的とする「場」としてとらえられ、政府(国民をふくむ)と住民が、あるいは中央政府地方自治体が、それぞれ法的地位を異にする独立したアクターとして理解されます
 これに基づいて、市場なら市場、環境なら環境という異なる「事業体」の理念に沿って、アクターが協同して理念の実現を目指すという見方が提起されました(その理念を逸脱する場合、「権限逸脱」ないし「違法」とみなされます)。さらにこの観点から、種苗法改正、環境保護フェアトレードについてどのような見方が可能となるかについて説明されました。
 質疑応答では、違法行為の解釈といった理論的内容から、環境保護の実務面のとらえ方に至るまで、広範な質問が提起されました。
 
 
2.フェアトレードと地域社会
長濱幸一氏(下関市立大学/西洋経済史)
 
(概要)
 最初に、フェアトレードの定義(「貧困のない公正な社会をつくるための、対話と透明性、 互いの敬意に基づいた貿易のパートナーシップ」)、フェアトレードの国際団体による価格設定や取引の公正性確保の取り組み、フェアトレード認定商品の基準(経済的、社会的、環境的)、世界のフェアトレード商品市場の動向、といったフェアトレードについての概説がなされました。
 これに続いて、日本国内におけるフェアトレードシティの試み(熊本、名古屋、札幌など)、日本独自のフェアトレードシティ認定基準(地域活性化につながっているかどうか)、フェアトレード大学の試み(中国地方にはFTSN; Fair Trade Student Networkの支部がないなか、下関市立大学学生有志団体 WSK - ホーム | Facebookの学生がその活動を評価されて2021年度のFTSN全国代表に選出されたことなど)について報告されたのち、下関での今後の可能性について、地元の水産業や農業、地元商店街との連携により、さまざまな展開が考えられるとの提案がありました。
 質疑応答では、長府や唐戸などの商店街での展開が可能、今後の政策としてぜひ取り入れてみては、等の提案がありました。また、公正な価格設定と市場原理との関連など、理論的な面での問題提起もありました。

【寄稿】SNSにおける言論規制についての公共哲学的考察

 先日の記事(ツイッター社対応へのドイツ市民の反応 - encyclios disciplina (hatenablog.com))に関連する論説を紹介します。

 筆者は井後智陽(いご・ともや)さん(経済学科3年)です。

 以下の論説は現段階ではラフ・スケッチのような位置づけになると思われます。今後、文献調査、現状把握、および(とりわけ「思想・討論」と「行為」、「自己に関するもの」と「他者に関するもの」の相違などに関して)さらなる考察を深めることで本格的な論文に発展させることを期待します。

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covid-19の今後

やはり気になるのは「今後どうなるか」だ。

政府や自治体の対策(感染対策から経済対策を経て、都市/国土政策全般に至るまで)もこれに左右されるだろうし、日ごろの仕事やコミュニケーションのあり方(対面か遠隔か?)も影響を受ける。

ネット上の記事:

抗体保有率、東京0.91% 新型コロナ、前回の9倍―厚労省:時事ドットコム (jiji.com)

抗体保有率、東京0.91% 新型コロナ、前回の9倍 厚労省(時事通信) - Yahoo!ニュース

このなかのヤフーコメントで、

米サイエンス誌に論文が発表されましたが、5~10年後には生まれてから5歳までには人類全員が感染するウイルスになるそうです。
ただ、子供の時に感染すればある程度耐性ができるので、歳をとってから感染しても重症化はしずらくなり、致死率は風邪並みになるそう。
現在、高齢者が重症化する率が高いのは、初めて感染するから。

要するに2歳までに全員が感染するRSウイルスやヘルペスみたいになるということです。

というのがあったが、「サイエンス誌の論文」というのはこれではないかと思われる:

Immunological characteristics govern the transition of COVID-19 to endemicity | Science (sciencemag.org)

目に留まったところを抜き出すと〔以下、自動翻訳の手直しによる仮訳〕…

小児期の重篤感染症とは対照的に、長期的に見ればCoV-2は、風邪を引き起こす軽度の風土性ヒトコロナウイルスの仲間に加わる可能性がある…。(in contrast with infections that are severe in childhood, CoV-2 could join the ranks of mild, cold-causing endemic human coronaviruses in the long run) 

ワクチンが伝染の大幅な減少を引き起こす場合、若年者については自然免疫と伝染が維持されると考えたうえで、感染がより高い罹患率および死亡率を引き起こす可能性のある高齢者への伝染 (delivery)を対象とする戦略を検討する必要がある。風土性への移行中、CoV-2への一次感染は高齢者に頻繁に起こるため、成人期の感染またはワクチン接種によって得られる免疫が小児期の自然感染によって産生されるものと類似しているかどうかを判断する必要がある。 (Should the vaccine cause a major reduction in transmission, it might be important to consider strategies that target delivery to older individuals for whom infection can cause higher morbidity and mortality, while allowing natural immunity and transmission to be maintained in younger individuals. During the transition to endemicity, primary CoV-2 infections will frequently occur in older individuals, and we need to determine if immunity induced by infection or vaccination in adulthood is similar to that produced by natural infections in childhood. )

この論文を引用しながらわかりやすく解説したのが次の記事(「ふつうの風邪に似たものとなると科学者は予測」)。

Coronavirus Will Resemble the Common Cold, Scientists Predict - The New York Times (nytimes.com)

次のように要約している。

自然感染やワクチン接種に続いてほとんどの成人が免疫を得ると、ウイルスはふつうの風邪と同等のものとなる。 (once most adults are immune — following natural infection or vaccination — the virus will be no more of a threat than the common cold)

楽観的とも思える見通し(「コロナウイルスは、低レベルで循環し、重篤な病気を引き起こすことはめったにない病原体である「風土性の病原体」になる (the coronavirus will become “endemic,” a pathogen that circulates at low levels and only rarely causes serious illness)」)がこの記事では述べられているが、「鵜呑み」にはできないだろう。

 

(その他参照)

How the pandemic might play out in 2021 and beyond (nature.com)

Coronavirus variants and mutations: The science explained - BBC News

Coronavirus: Virus provides leaps in scientific understanding - BBC News

The major genetic risk factor for severe COVID-19 is inherited from Neanderthals | Nature